冷凍機械の勉強をしていて、体積効率ってのがでてくるんだけど、これってどんな意味なの?よくわからないから教えてほしいわ。
こんな疑問にお答えします。
結論から伝えておくと、体積効率とは、圧縮機が吸い込んだ冷媒を、どのくらいの割合で圧縮できているか、の指標となります。
冷凍機械の勉強では、圧縮機の学習は必ず必要なものとなります(試験でも出題されます)。
中でも体積効率は基本の概念となりますので、理解しておく必要があります。
といっても、そこまで難しいものではありませんので、安心してください。
今回の内容はこちら!
- 体積効率の意味(定義)
- ピストン押しのけ量と吸込み蒸気量
- 体積効率が低下する理由3つ
以下で詳しく、絵を用いて原理をわかりやすく解説するので安心してください。
数式を用いたもっと詳細な内容を理解したい方は、以下の応用編をご覧ください。
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体積効率|計算式を用いて詳しく解説【冷凍機械の圧縮機】応用編
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もくじ
体積効率はピストン押しのけ量と吸込み蒸気量の比
ここではわかりやすいように、圧縮機の中でも往復式圧縮機を例にとって解説していきます。
往復式圧縮機は、絵のように、吐出し弁と吸込み弁がシリンダの上についていて、ピストンが上下運動をして、入ってきた冷媒を圧縮するシンプルな構造です。
このとき、体積効率\(\eta_{v}\)は、以下のように表すことができます(\(\eta\)は“イータ”と読みます)。
$$ \eta_{v}=\frac{q_{vr}}{V}\tag{1}$$
\(q_{vr}\):圧縮機の吸込み蒸気量
\(V\):ピストン押しのけ量
この\(q_{vr}\)、\(V\)を詳しく解説していきます。
ピストン押しのけ量\(V\)
ピストン押しのけ量\(V\)は、圧縮機のピストンがどのくらいの体積分を押しのけることができるかを表したものです。
シリンダの中に冷媒を入れて、ピストンを上下運動させることで圧縮させるとき、一度にどのくらいの体積の冷媒を圧縮できるか、ということです。
ここに円筒状のシリンダで、ピストンが最も下に来た場合(下死点)と、最も上まで来た場合(上死点)を考えます。
最も下に来た時に冷媒をめいっぱい吸い込んで、最も上まで上がって圧縮します。
この時、ピストンが圧縮することのできた体積が、\(V\)となります。
読んで字のごとし、ピストンが押しのけることのできる量が\(V\)ですね。
吸込み蒸気量
これも名前の通りですが、シリンダ内に吸い込むことのできる冷媒蒸気の量を吸込み蒸気量\(q_{vr}\)といいます。
これも絵を用いて考えると、右の絵のように、圧縮が終わってピストンが一番上まで来ているとします。
ここからピストンが下がっていくにつれ、左の絵のように吸込み弁から冷媒がシリンダ内に吸い込まれていきます。
例えば健康診断で採血をするとき、注射器で血液を取りますが、そのときも注射器のピストンを引くことで、シリンダ内に血液を入れていきますよね。それと全く同じ原理です。
さて、最後までピストンが引き終わったとすると、その時に入った冷媒の量がまさに吸込み蒸気量\(q_{vr}\)となります。
体積効率
以上より、もう一度復習すると、ピストン押しのけ量\(V\)と圧縮機の吸込み蒸気量\(q_{vr}\)の比が体積効率となります。
$$ \eta_{v}=\frac{q_{vr}}{V}\tag{1}$$
賢い方は何か違和感を感じるかもしれません。
ん?ピストン押しのけ量と吸込み蒸気量って同じじゃないの?と。
確かに、ピストンが上下運動する長さ(ストローク)は同じですので、ピストン押しのけ量分だけ冷媒が入り込むと考えるのが普通ですよね。
理想的にはそうですが、実際は吸込み蒸気量はピストン押しのけ量よりも小さくなってしまいます。
体積効率の低下する原因
ではなぜ吸込み蒸気量とピストン押しのけ量の値が同じにならないか、つまり、体積効率が低下するのか。代表的でわかりやすい3つの原因を紹介します。
- トップクリアランス内の圧縮ガスの再膨張
- 圧縮の際の冷媒のシリンダーからの漏れ
- 吸込み弁と吐出し弁の開閉動作の遅れ
一つずつ解説していきます。
トップクリアランスとは
体積効率の低下の前に、まずトップクリアランスについて解説します。
トップクリアランスとは、シリンダの中で、ピストンが最も上まで上昇した時に残る空間のことです。
この絵をみると、ピストンが最も上に上昇した場合でも、シリンダの一番上まで届くことはなく、途中で止まっていますね。
ここの空間がトップクリアランスと言います(水色の部分)。
どうしてこんな空間を作るの、一番上までめいっぱい押し込めばいいじゃん、と思いますよね。
でも、実際にはそうすることができません。
なぜかというと、絵の通り、上の部分には吐出し弁、吸込み弁があるからです。
ピストンを一番上まで動かしてしまうと、これらの部品にあたって破損してしまうので、当たらないところで止めなくてはいけないんですね。
これが理由で、トップクリアランスというのは存在します。
トップクリアランス内の圧縮ガスの再膨張
話を戻します。まず一つ目に、どうしてトップクリアランスがあると体積効率が低下してしまうかについてです。
吐出しの工程では、ピストンが上死点までいって冷媒を全て吐き出しても、トップクリアランスに冷媒が残っています。
この後、ピストンが下死点に向かっていく時、吸込み弁から冷媒を吸込み始めますが、このとき、トップクリアランス分は冷媒が入り込むことができません。すでに冷媒が入っているからですね。
トップクリアランスに残された冷媒が、次の圧縮の時に再膨張されることで、その体積分だけロスすることになります。
もちろん、トップクリアランスが小さくなればなるほど、吸込み蒸気量が増加して、体積効率も増加できます。
トップクリアランス内の圧縮ガスの再膨張、これが体積効率低下の原因の一つとなります。
ピストンからクランクケースへの冷媒もれ
二つ目として、ピストンからクランクケースへの冷媒もれがあります。
上の絵のように、ピストンとシリンダの間には、わずかな隙間が空いています。
ピストンが上下に動くときに、毎回シリンダと当たっていたら、磨耗で擦りへってしまいます。それを防ぐためにわずかな隙間を設けているのです。
冷媒を圧縮するためにピストンを上下運動すると、そのすきまから冷媒が少しずつもれていき、もれた冷媒はクランクケースというところに行くこととなります。
これが原因で吸込み蒸気量が減少するため、体積効率が低下します。
吸込み弁と吐出し弁の開閉作動の遅れ
3つ目は、シリンダ内に冷媒を吸込む動作と吐出す動作の間に、弁の開閉に遅れが生じてしまう現象です。
ピストンが冷媒を圧縮し終わって、上死点にあるとします(一番左の絵)。このとき、二つの弁は、吐出し弁は開放していて、吸込み弁は閉じている状態です。
ここからピストンが下死点に向かって下がっていくと(真ん中の絵)、冷媒を取り込むために吸込み弁が開き、吐出し弁は閉じていきます。
ただ、どちらの弁も一瞬で開いたり閉まったりはできないため、吸込み弁と吐出し弁の開閉動作の遅れによって、どちらも半開きのような状態が存在してしまいます。これが原因で、吸い込んだはずの冷媒が勝手に吐出し弁を通り抜けてしまうような現象が起こります。
この弁の開閉遅れは、吸込みが完了して、圧縮工程へ移行する際にも生じます。
この、二つの弁が両方とも開いていることにより、体積効率は低下します。
最後に
これで、体積効率とは何か、また、なぜ体積効率の低下が生じてしまうのかがわかったと思います。
体積効率の勉強は冷凍機械の理解には必ず必要ですし、冷凍機械責任者試験でも、第三種から出題される内容ですので、しっかり復習して自分のものにしましょう。
お役に立てれば幸いです。