断熱効率、機械効率、さらに体積効率と、圧縮機のパフォーマンスを左右する効率は3つあります。
今回はその中でも、断熱効率・機械効率について詳しく解説していきます。
今回の内容はこちら!
- 断熱効率
- 機械効率
- 圧力比と断熱・機械・体積効率の関係
体積効率については、以下の記事で書いていますので、参考にしてください。
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体積効率の意味・求め方【冷凍機械の圧縮機】イメージで解説|基礎編
体積効率|計算式を用いて詳しく解説【冷凍機械の圧縮機】応用編
冷凍機械試験の三冷を受ける予定の方は基礎編を、二冷以上を挑戦する方は応用編も併せて読むと完璧です。
もくじ
全ては圧縮機の中の効率
先ほど紹介したとおり、この3つの効率は全て、圧縮機が運転する時の性能を決める重要な要素です。
なぜなら、どれか一つの効率が悪くても、圧縮機の全体の効率は悪くなってしまうからです。
一つずつ効率を見ていきます。
断熱効率
断熱効率とは、圧縮機が断熱変化で冷媒を圧縮した場合での動力と、実際に圧縮した際に必要となった動力の割合を表したものです。
$$ \rm{断熱効率=\frac{断熱変化での冷媒の圧縮動力}{実際の圧縮に必要な動力}}$$
断熱変化とは、圧縮の前後で熱の出入りが全くない状態での理想の変化のことをさします。
断熱変化の状態では、冷媒が圧縮される際、エントロピーの変化はなく、p-h線図での圧縮過程(図中の赤い線です)は等エントロピー線に平行に変化します。
断熱効率の式
ここで断熱効率\(\eta_c\)の式を、p-h線図を用いて表します。
断熱変化、つまり理想的な圧縮の動力は、図中では赤い線で表されます。
等エントロピー変化なので、エントロピー線に平行に移動して圧力が上昇していきます。
この時の理想的な圧縮動力を\(\rm P_{ideal}\)とすると
$$ P_{ideal}=q_{mr} \times(h_2-h_1)$$
となります。
ここで\(q_{mr}\)とは、冷媒循環量[kg/s]です。
一方、実際には熱は出て行ってしまうので、等エントロピー線に平行に圧縮することはできず、比エンタルピーが大きくなり、実際の圧縮動力は以下のようになります。
$$\rm P_{real}=q_{mr} \times(h_2'-h_1)$$
断熱効率\(\rm\eta_c\) は、\(\rm\eta_c=\frac{P_{ideal}}{P_{real}}\)なので、結局
$$\rm \eta_c=\frac{q_{mr} \times(h_2-h_1)}{q_{mr}\times(h_2’-h_1)}=\frac{h_2-h_1}{h_2'-h_1}<1$$
この比エンタルピーの差が、断熱効率が低下する原因になっています。
断熱効率での熱のロス
上の式は、次の図のように考えることができます。
実際の圧縮動力Pcは、理想的な(断熱変化)場合に必要となる圧縮動力Pthと、熱の逃げ分(ロス分)の和である、ということです。
こう考えればすっきりするのではないでしょうか。
理想よりも現実の方が動力を必要とするので、断熱効率は常に1以下となります。
断熱効率の考え方
-
$$ \eta_c=\frac{P_{th}}{P_c}$$
\(P_{th}\):理論断熱圧縮動力 [W]
\(P_c\):蒸気圧縮に必要な圧縮動力 [W]
熱の出入りがなく、理想的な場合での圧縮に必要な動力(Pth)を、実際に冷媒蒸気を圧縮するのに必要な、現実的な圧縮動力(Pc)で割っています。
機械効率
機械効率\(\eta_m\)は、断熱効率よりは理解しやすい効率です。
圧縮機内のピストンとシリンダの間の摩擦、軸受けなどによる摩擦によってロスする分の動力の効率を、機械効率といいます。
イメージで考えてみます。
ピストンとシリンダの間は、隙間が空きすぎている(左図)と、冷媒が漏れてしまって、体積効率が低下してしまいます。
反対に、ピストンとシリンダの隙間が狭すぎる(右図)と、摩擦が強くなりすぎてしまって効率が悪くなってしまいます。
冷媒を逃がさず、かつうまくピストン運動するには、ほんの少しだけ触れ合っているのが理想的ですよね。
このように絶妙にセッティングされても、擦れあうわけですので、その分ロスが生まれます。また、軸受けなどの金属が触れ合っている部分には必ず摩擦が生まれ、エネルギーのロスが生まれます。
これらの摩擦が多いほど、機械効率が大きい、ということになります。
機械効率の式
機械効率\(\eta_m\)は、蒸気の圧縮に必要な軸動力Pcを、圧縮機を駆動させる動力Pで割ることで得ることができます。
機械効率の考え方
-
$$\rm \eta_m=\frac{P_c}{P}$$
$$ P=P_c+P_m$$
\(P_c\):蒸気圧縮に必要な圧縮動力 [W]
P:圧縮機を動かすのに必要な動力 [W]
これを先ほどと同様に、動力の棒グラフで表すと、圧縮機を動かすのに必要な動力Pは、蒸気の圧縮に必要な動力Pcと、機械的摩擦損失動力(ピストンや軸受の摩擦)\(P_m\)の足し算である、ということになります。
体積効率
体積効率は、上の二つの効率と比べると少し複雑なので、基礎編と応用編に分けて記事にしています。
基礎編でわかりやすく解説しているので参考にしてください。 続きを見る 続きを見る
体積効率の意味・求め方【冷凍機械の圧縮機】イメージで解説|基礎編
体積効率|計算式を用いて詳しく解説【冷凍機械の圧縮機】応用編
圧力比が増加すると3つの効率はいずれも低下する
3つの効率がわかったところで、これらには同一の特徴があります。
それは、圧力比が増加すると効率が低下する、ということです。
これについてみていきます。
断熱効率が低下する理由
断熱効率の式をおさらいすると、
断熱効率\(\rm\eta_c=\frac{P_{th}}{P_{c}}\)
でした。
圧力比が増加するということは、圧縮機の吸込み圧力と、吐出し圧力の差が大きくなる、ということでした。
つまり、圧縮機はいつもよりがんばって冷媒を圧縮して圧力を上げようとしている状態です。
ということは、Pcである、実際の蒸気圧縮に必要な圧縮動力は増加しますね。
すると、断熱効率の式でPcは分母にあるので、Pcが増加するということは、\(\eta_c\)は減少する、ということになります。
機械効率が低下する理由
機械効率の式は、\(\eta_m=\frac{P_{c}}{P}\)でした。
実際の圧縮機駆動に必要な軸動力であるPは、先ほどの棒グラフより
P=\(P_c\)+\(P_m\)
であるので、\(\eta_m\)は
\(\rm\eta_m=\frac{P_{c}}{P_c+P_m}\)
と表すことができます。
このとき圧力比が増加すると、断熱効率のときと同じように\(P_c\)が増加します。
機械効率では、\(P_c\)は分母と分子の両方に入っています。
これではどちらも値が同じかというと、もう一つ、機械的摩擦損失Pmが大きくなります。
冷媒をたくさん圧縮しようとしているので当然、いつもより大きな力を出しています。すると摩擦が増えるのも当たり前ですよね。
結局は分母の増加が大きくなることで、機械効率\(\eta_m\)は低下していきます。
ですが、Pcがある分だけ低下は限定的で、断熱効率ほどの低下はありません。
体積効率が低下する理由
こちらについては、以下の記事を確認してみて下さい。
体積効率が低下する理由がわかります。 続きを見る
体積効率|計算式を用いて詳しく解説【冷凍機械の圧縮機】応用編
まとめ
ここまで、圧縮機の能力を決める3つの効率を見てきました。
冷凍機械の試験では、一冷であっても三冷であっても、保安管理技術、学識の分野で出題される確率の高い内容です。
お役に立てれば幸いです。